教授 福島和彦


研究テーマ:細胞壁の生合成(リグニン生合成),リグニン化学構造解析

科学研究費助成事業データベース http://kaken.nii.ac.jp/d/r/80222256.ja.html
名古屋大学教員データベース http://profs.provost.nagoya-u.ac.jp/view/html/100002374_ja.html

  • 平成2年 1990.3 名古屋大学大学院農学研究科博士後期課程修了(農学博士)
  • 平成2年 1990.4 名古屋大学農学部助手に採用
  • 平成9年 1997.8 名古屋大学農学部助教授に昇任
  • 平成11年 1999.4 名古屋大学大学院生命農学研究科助教授に配置換
  • 平成16年 2004.6 名古屋大学大学院生命農学研究科教授に昇任   現在に至る

木質バイオマスのこれから~化学的利用に向けて~

名古屋大大学大学院生命農学研究科 教授 福島和彦

 いま、なぜ林業・木材産業が着目されているのか、考えてみたいと思います。そうすると、日本が直面する課題が透けて見えてきます。

1) 地球温暖化防止(持続的・循環型社会の構築)
 産業革命以後、地球の気温は既に約0.8度上昇しており、2100年までの上昇を2度未満(1.5度未満が目標)に抑えなければ、人類にとって計り知れない損失となることが報告されています。そのためには、各国に温室効果ガス排出量の削減目標を定め、「達成のため、削減に向けた国内の対策を取ること」を義務づけています(パリ協定)。今後は、現在確認されている石油埋蔵量の2割程度しか使えないことになります。欧米では、市場経済も敏感に反応し、石油や石炭を用いる事業には投資しないというルールが導入されつつあります。今後はカーボンプライシング(炭素税)などが導入され、化石資源を使わない産業が成長を遂げていくものと推察されます。
 では、木材利用がなぜ二酸化炭素排出量削減に効果があるのか考えてみましょう。

  1. 木材はカーボンニュートラル(燃焼で生ずる二酸化炭素は植物により吸収されるので2酸化炭素上昇を引き起こさない)な性質を有するので、化石資源の代替効果があげられます。
  2. 次に、炭素貯蔵効果があげられます。立木の年輪構造に炭素をストックでき、伐採後も、建材や家具として利用されている間、炭素がストックされます。
  3. さらに、鉄やコンクリートに比べて、木材は製造段階で消費するエネルギーが極めて少ないことも二酸化炭素排出量削減の大きな要因と言えるでしょう。木は切削すればそのまま材料として利用できることから容易に想像できる筈です。

 このように、森林の適正な管理がなされていれば、木材利用は地球温暖化を抑制するだけでなく、人類が生きていく上で必要なエネルギーや材料の原料を持続的に供給することを可能にします。これまでは、木を伐ることは環境破壊との固定観念が定着していましたが、今は、木材は持続的な社会を構築する上で欠かせない資源として見直されているのです。

2) 新しい成長産業の創生
 我が国において持続的供給が可能な森林資源をスマートに活用し、外国に資源を頼らなくても発展していける社会を構築することが求められています。日本には国土の三分の二にあたる2500万ヘクタールの森林があり、そこで毎年生産される木材の成長量は約1億立米と言われており、林業が活性化して、木材が安価で安定供給される仕組みができれば、現在日本で消費されているプラスチック原料(石油)に代わるだけの量は供給可能となります。木質バイオマスから石油製品代替物を創生し生産することは、資源の国内調達を可能とするため、将来の産業構造を見据える上でも、大きく注目されています。
 現在、木から作られるセルロースナノファイバー(CNF)や直交集成板(CLT)が新材料としての期待が高まっており、世界で熾烈な開発競争が繰り広げられています。今後、バイオリファイナリーの鍵を握っているのが、リグニンという高分子物質(フェニルプロパン単位の重合物)と言われています。リグニンは植物細胞壁(木材はその集合体)において、セルロース繊維の隙間を埋めて、細胞接着や強度発現において重要な役割を担っていますが、その構造の複雑さと化学変換の難しさ故、熱利用以外の使い道がほとんどありませんでした。木材バイオマスの20から30%を占めるリグニンを再生可能な新材料原料として利活用することが求められています。幸い、日本はセルロースやリグニン研究者の層が厚いので、新産業創生は夢で終わってはならないと思います。

3) 中山間地域の活性化
 二酸化炭素排出量削減の観点からも、木質バイオマスの地産地消は重要な要素です。今後、カーボンフットプリント(原材料の調達から製造、輸送、消費後の廃棄に至るまでの過程で、電力や燃料の消費などを通してその商品が出す温室効果ガスの量を積み上げ、CO2に換算したもの)表示があらゆる製品に広く浸透する日も近い将来必ず来ると思われます。この観点からも、木質バイオマス関連産業の拠点は都市部(臨海部)から中山間部にシフトしていくものと考えられ、中山間地域の経済活性化に繋がるものと期待されています。

4) カスケード利用の徹底
 木材は、価値の高いものから順々に取っていって、最後まで余すことなく使い尽すことが重要で、これを「カスケード利用」と呼んでいます。例えば、木材を化学的に変換して利用する場合、製材段階で排出される端材やおが粉で十分です。その方が原料を安く入手できるし、加工する上でも好ましいと言えます。木質バイオマス発電や熱利用を推進していく上でも、端材や木くずが安定して排出される木材産業構造が望まれています。そのためには、大径材や横架材などを生産する製材所が増えて、端材がたくさん出るような施設が多く稼働することが必須となります。大型公共建築物や大型商業施設などに木質構造を多く導入し、大径材の需要を増加させていく政策的な転換も求められています。

<最後に・・・研究室からのメッセージ>
 森林資源を有効に活用すれば、地球温暖化を抑制でき、美しい「木の国、日本」を後世に残していくことも可能となります。森林化学研究室は創設以来、一貫してリグニンの化学構造解明や化学的有効利用の道を探求してきました。私たちは、これまでに、世界に先駆けてリグニン生合成新規経路を提唱したり、水溶性のリグニン前駆物質のケミカルマッピング(細胞レベルで化合物の局在を可視化)を可能にしたり、リグニンの化学修飾による高機能化を実現したり、基礎から応用まで内外で高い評価を得る研究を展開してきています。大学院進学を希望される方、共同研究を希望される方、是非、私たちと一緒に持続可能な社会を構築しませんか。ご連絡をお待ちしています。

インタビューメッセージ

Q1. 先生のご専門は何ですか?
 細胞壁の生合成(リグニン生合成)、リグニン化学構造解析、生体成分の細胞レベルでの可視化などです。

Q2. 最近興味を持っているトピックは何ですか?
 植物の進化と細胞の分化(機能化)ですね。植物が進化の過程で陸上に進出するとき、分厚い細胞壁とリグニンという物質を手に入れました。このリグニンという物質、細胞の種類や分化段階により量や構造が異なっています。植物がどのようにリグニンの不均一な形成を制御しているのかを解き明かすことが最大の目標です。
 また、顕微レベルでリグニン前駆物質の分布を可視化することにも深い興味があります。当研究室は、これまでに極低温2次イオン質量分析という手法を用いて水溶性低分子化合物のマッピングを世界に先駆けて開発してきました。今後は、あらゆる生体成分のケミカルマッピングに応用できるものと期待しています。
 最後に、環境調和型持続的経済発展のモデルを提案したいですね。とくに、荒廃した森林の復元は早急になんとかしなければいけません。

Q3. 研究者の道を選んだ理由またはきっかけを教えてください。
 大学院前期課程1年の時、複合細胞間層リグニン(細胞と細胞をくっ付ける働きがある)の構造に関して誌上論争が繰り広げられていました。リグニンの形成という視点から自らこの問題に決着がつけたかったのが理由です!

Q4. 研究者の道を選んでよかったと思うのはどんな時ですか?また、研究者でなかったら何になっていたと思いますか?
 良かったと思うことは,一つの問題を解き明かしたときの達成感ですね。また,学会や講演で世界中を旅することができること。
 大学の研究者でなく企業の研究者となっていたとしても、一つの問題を解き明かしたときの達成感を追い求めていたと思います。

Q5. 先生ご自身の視点から、サイエンスの世界のおもしろさを教えてください。
 世界で最初の現象を観察できること。今まで、誰も知り得なかったことが、自分の手で解明できる喜び。

Q6. 今までのご経験から、先生のモットーあるいは哲学などを教えてください。
一. 忍耐(研究遂行に必要)
一. 決断力(テーマの設定や変更の際に必要)
一. 美学、感性(絵画や音楽鑑賞などの芸術と研究は結構似ていると思う)
一. 謙虚(周りのサポートがあって今の自分があること忘れるな)

Q7. 仕事以外の時間は何をして息抜きをされていますか?趣味などありましたら教えてください。
 クラシック音楽鑑賞、歴史探訪、野球観戦(ドラ応援)、歌(カラオケ、合唱など)

Q8. 今後、先生はどういった野望をお持ちですか?
 この研究室をリグニン研究のメッカにしたい!そして、未だ完全にはわかっていないリグニン生合成の全容を解明したい。さらに、リグニンの正しい構造を把握した上で、高度有効利用の道を探り、化石資源に頼らない社会を構築していきたい。

Q9. 最後にこれを読む学生さんに向けて熱いメッセージをお願いします。
 リグニン化学は難しい学問領域ですが、その分やりがいがあります。リグニン等の生物資源を化石資源の代替として利用する道を確立することは、早急に解決しなければいけない人類の課題だと考えています。