イチョウ中のコニフェリン分布と木化プロセス

イチョウ中のコニフェリン分布と木化プロセス

D. Aoki, Y. Hanaya, T. Akita, Y. Matsushita, M. Yoshida, K. Kuroda, S. Yagami, R. Takama, K. Fukushima
Distribution of coniferin in freeze-fixed stem of Ginkgo biloba L. by cryo-TOF-SIMS/SEM
Sci. Rep. 6, 31525; doi: 10.1038/srep31525 (2016).
DOI: 10.1038/srep31525

細胞壁主成分のひとつであるリグニンは、その詳細な生合成過程や構造に多くの未解明な点が残っています。
例えばどの化合物が前駆体として働いているのかについても、未だ議論は決着していません。

有望な前駆体候補としてコニフェリン(コニフェリルアルコールの配糖体)があります。
当研究室ではこれまでに、放射性炭素(14C)で標識したコニフェリンをイチョウに投与し、
そのコニフェリンがリグニンに取り込まれることを示しました。
さらにその取り込みタイミングは明確に2箇所に分かれており、
複合細胞間層および二次壁の木化開始時期に一致していました。

しかしながらこの成果はあくまで投与されたコニフェリンによるものであり、
植物中における天然のコニフェリンがどこに存在しているのかは不明なままでした。
コニフェリンは水溶性の低分子化合物であり、
顕微レベルでの分布可視化が非常に困難であったためです。

そこで当研究室では、水溶性化合物の顕微可視化ならびに詳細な組織観察が可能である
低温-飛行時間型二次イオン質量分析/走査電子顕微鏡(Cryo-TOF-SIMS/SEM)システムを開発し、
イチョウ中に存在する天然のコニフェリンの分布を可視化しました。

結果より、イチョウ中のコニフェリンは形成層帯から分化中木部に向かって
徐々に蓄積されていることがわかりました。
複合細胞間層の木化開始時期においてもコニフェリンは細胞中に貯蔵され続けていましたが、
二次壁の木化が開始されると同時にその細胞内濃度は急激に減少し、
リグニンへの変換が活発に行われていることが示唆されました。

以上のように天然のコニフェリン分布は、細胞の木化過程ならびに
投与されたコニフェリンによって示されたリグニンへの取り込みタイミングと一致しており、
リグニン前駆体として利用されているものと考えられます。