イチイ中のタキサン類の分布

イチイ中のタキサン類の分布

Q. Gong, D. Aoki, M. Yoshida, K. Fukushima
Microscopic distribution of taxanes in freeze-fixed stems of Taxus cuspidata
Frontiers in Chemistry, 12:1437141 (2024)
DOI: 10.3389/fchem.2024.1437141

イチイ属(Taxus)は、抗がん剤として広く知られるパクリタキセルを含むことで注目されていますが、
他にもタキサン環骨格を有する多くのタキサン類が存在し、タキサン系抗がん剤の生産に利用されています。
しかし、こうした強力な毒性を持つタキサン類が植物内でどのような役割を果たしているのか、
特にイチイ(Taxus cuspidata)においては、まだ十分に解明されていません。

今回の研究では、イチイ中における8種類のタキサンの分布に着目しました。
イチイの板目面切片を用いたLC-MS定量分析を行い、さらにイメージング質量分析によって、
タキサン類、特にパクリタキセルの生合成前駆体であるバッカチンIIIの分布を可視化しました。
異なるタキサンの存在量と分布が、夏から春の発芽期にかけて季節的に変化することを確認しました。
また、バッカチンIIIは師部(主に師細胞)、形成層、木部(主に放射柔細胞)に局在しており、
タキサン類が植物内で輸送されている可能性が示唆されました。

この研究は、植物が自らの生存戦略としてタキサンをどのように運用し、
季節ごとの環境変化にどのように適応しているのかを解明するための一歩となります。
今後、タキサンの生合成経路や植物内での役割について、さらに研究が進められることが期待されます。