樹木内部における真の脂質分布の可視化

樹木内部における真の脂質分布の可視化

S. Yamagishi, K. Shigetomi, S. Fujiyasu, D. Aoki, T. Uno, K. Fukushima, and Y. Sano
Artifactual lipid coatings on intervessel pit membranes in dried xylem tissues of some angiosperms
IAWA Journal, DOI: 10.1163/22941932-bja10060 (2021)
10.1163/22941932-bja10060

何らかの化合物が分布している様子、を可視化するには様々な方法があります。
特に生体組織を実験対象として用いる場合、
「天然の状態をそのまま見る」ことが目標のひとつとなります。
しかしながら生物の内部を、生きている状態のまま化学的に分析することは困難です。
できるだけ生に近い状態で観察しました、という多くの実験が報告されてきましたが、
新たな観察手法の開発によって、これまで見えていたものが人為的な変化を受けた後の状態であったこと、
すなわちアーティファクトであったとわかることがあります。

今回の研究では、広葉樹の道管と道管をつなぐ孔(相互壁孔)が調査対象でした。
この相互壁孔には何らかの脂溶性化合物が徐々に沈着することがわかっており、
樹木内の水輸送に関して、何らかの影響があるものと考えられていました。
しかしながら本研究では生きている樹木をすぐに凍結し、
凍結状態を維持したまま分析すると、そのような沈着が見られないこと、
室温で静置することで沈着が生じること、その主成分が長鎖脂肪酸であることが明らかになりました。
生体試料の観察において、生きている状態を議論するために、
その保管方法が極めて重要であることを再認識することができました。