スギに投与した133Csの樹幹内移動
D. Aoki, R. Asai, R. Tomioka, Y. Matsushita, H. Asakura, M. Tabuchi, K. Fukushima
Translocation of 133Cs administered to Cryptomeria japonica wood
Sci. Total Environ., 584–585, 88–95 (2017)
DOI:10.1016/j.scitotenv.2017.01.159
東日本大震災時の原子力発電所の事故によって広範囲に放出された放射性核種が
環境中でどのような移行挙動を示すのか、様々な研究が行われています。
樹木内にセシウム(Cs)が侵入することについて、チェルノブイリ事故以来、様々な報告があります。
Csはカリウムと類似した性質を持ち、生きた植物細胞は積極的に取り込んでしまう傾向があります。
樹皮に付着したセシウムには水溶性と非水溶性のものがあり、
このうち水溶性のものが樹皮を通して樹木内部までしみこむことがわかっています。
これまでの研究において、Csのおおまかな輸送は
師部における下方向の輸送と木部による上方向の輸送が主要なルートとされていましたが、
水溶性であるCsが生きた植物内でどのように分布しているのかを
顕微レベルで可視化することは難しく、その詳細は不明なままでした。
本実験では安定同位体の133Csをスギ苗木の樹皮に塗布、あるいは土壌に散布し、
その植物内での移動を低温・飛行時間型二次イオン質量分析(cryo-TOF-SIMS)で可視化しました。
樹皮に塗布されたセシウムが放射柔細胞を経由して髄まで迅速に輸送され、
さらに髄を通して上下方向(主に上)へ輸送されている様子が観察されました。
また軸方向輸送には軸方向柔細胞が関わっていることもわかりました。
このような移動は投与から1日以内に進行しており、
植物内でのCsが迅速かつダイナミックに輸送されている状況が可視化されました。