ライラック樹幹中におけるシリンギンの分布可視化

ライラック樹幹中におけるシリンギンの分布可視化

D. Aoki, W. Okumura, T. Akita, Y. Matsushita, M. Yoshida, Y. Sano, and K. Fukushima
Microscopic distribution of syringin in freeze-fixed Syringa vulgaris stems
Plant Direct, 3, 1–8 (2019)
DOI:10.1002/pld3.155

リグニンの前駆体であるモノリグノールは、
水溶性が低く、遊離フェノール性水酸基による反応性を有するため、
生体内での貯蔵・輸送が難しい構造をしています。
そのためか、グルコースが付加して安定化したモノリグノール配糖体、
という構造が植物中からよく見つかります。

このモノリグノール配糖体のひとつであるシリンギンは、
ライラック(ムラサキハシドイ、Syringa vulgaris)から多量に検出されています。
(syringinの名前の由来にもなっています)
その貯蔵量は、成長期よりもむしろ秋・冬に増加傾向があり、
かつ、樹皮に大量に貯蔵されていることがわかっていました。
そのため、リグニン前駆体であるモノリグノール、の配糖体ではありますが、
リグニンの沈着、すなわち木化には関与していないのではないかと考えられていました。
しかしながら樹幹内の詳細な分布が不明なため、結論が出ていませんでした。

そこで本研究では、凍結したライラック樹幹内のシリンギンの分布を
低温-飛行時間型二次イオン質量分析(Cryo-TOF-SIMS)を用いて可視化しました。

結果より、形成層帯から木化開始までの領域においてシリンギンが貯蔵されており、
細胞壁全体の大規模な木化開始と同時に見た目の貯蔵量は急減しました。
このことから、分化中木部に貯蔵されているシリンギンは、
リグニンの前駆体として働くのではないかと考えられます。

さらに道管について見ると、分化段階の一部においてのみ、
シリンギンが道管内から検出されました。
道管ではすでに木化が完了している段階のため、
周囲細胞の木化に関連した細胞間輸送を示しているかもしれません。