イチョウのchi-chi:内部構造と成長様式

イチョウのchi-chi:内部構造と成長様式

S. Higuchi, D. Aoki, Y. Matsushita, M. Yoshida, S. Yagami, K. Fukushima
The “chi-chi” of Ginkgo biloba L. grows downward with horizontally curving tracheids having compression-wood-like features.
J. Wood Sci. 69, 27 (2023).
DOI: 10.1186/s10086-023-02102-4

イチョウ(Ginkgo biloba L.)は非常に古い種です。
2億年ほど前から化石が見つかっており、恐竜と同世代といえます。
生きた化石として生物学・植物学の研究対象にもよくなっています。

一度絶滅しかけたものの、現在の中国・浙江省あたりで野生種が生き残ったようです。
日本への伝来は諸説ありますが、鎌倉~室町時代のあたりではないかと考えられています。
(とすると樹齢800年を超えているとするような伝承は再調査の必要があります・・・)

さてそんなイチョウですが、葉の形がわかりやすく、ギンナンは食べ物にもなり、
わりと大きく育つため、各地でイチョウ巨樹がモニュメント・信仰対象ともなってきました。
その中で大きなイチョウの木は、枝から地面の方に向けて鍾乳石のような組織を作ることがあります。
これを日本では(鍾乳石と同じく)「乳」と呼び、これをもつ大きなイチョウは「乳イチョウ」として、
母乳の出が良くなるなどのご利益があるとして大事にされてきました。

この乳(英語論文でもchi-chiなどと表記されています)は、
その形成トリガー、成長様式、そして何のためにこんなものを作るのか?などなど
わかっていないことが多い謎の組織です。
大きなイチョウの木、は天然記念物などに指定されていることが多く、
“実験試料”としての伐採ができないことが多いのですが、
今回、岐阜県笠松町・秋葉神社のイチョウからサンプルを頂くことができました。

内部の組織・化学構造を調査したところ、
chi-chiの成長下端付近では、細胞がぐるぐると渦状になっていたり、
細胞壁の多層構造・リグニンの化学構造が正常な材とは異なっていることがわかりました。
またこの組織は気根と呼ばれることもありますが、明らかに根とは異なっています。

結果より、chi-chiがどのように成長するのか、どういう組織を作るのか、などについて
新たな知見が得られましたが、イチョウがなんでこんなものを作るのかはよくわかっていません。
こんな謎の多い木ですが、多くの都府県・市町村・大学のシンボルツリーにもなっています。
街路樹としても活躍しているイチョウを今後ともよろしくお願いします。